SDG’Sの時代のクルマ選び──サステイナブルにクルマに乗る、とは今後どういうことなのか?

メルセデスのPHV(プラグインハイブリッド)モデル「GLC 350 e 4マチッククーペ」

CAR / FEATURES
2020年6月21日

SDG’Sの時代のクルマ選び──サステイナブルにクルマに乗る、とは今後どういうことなのか?

サステイナブルにクルマに乗る、とは今後どういうことなのか?

地球温暖化に対する早急な対策が世界的な課題となり、温室効果ガス排出量に対する欧米を中心とした規制が厳しさを増す昨今。EVやPHV、ハイブリッド車など、環境への負荷の少ないクルマへシフトする動きがますます顕著化している。そんな時代において、クルマ好きとしてどんなクルマに乗るべきなのだろうか。自動車ライターの南陽一浩氏が解説する。

Text by Kazuhiro Nanyo

温室効果ガス排出量規制の状況

新型コロナ後の必然的なコンセンサスとして、移動手段としてのクルマ、しかもカーシェアではなく個人所有の自家用車が見直されている。ニューヨークの感染拡大の要因として地下鉄のような公共交通機関の利用が関係したことが報告されたように、あるいは韓国をはじめとする国々でドライブスルー式のPCR検査が一定の有効性を発揮したように、都市部でも他人との密なコンタクトを避けられるプライベート空間、かつ移動手段であるクルマの有用性に、再スポットが当たっているということだ。
「サステイナビリティ」や「サステイナブル」というキーワードが、今日の21世紀的な意味ではっきり定義されたのは、2005年に191ヵ国が参加した国連本部での世界サミットでのこと。経済・社会・環境の3項目をどれか一つでなく不可分のものと捉え、地球規模の温暖化を防ぎつつ発展する、という方向性は、1997年に採択された京都議定書、2016年のパリ協定を通じて196ヵ国に共有されてはいる。ところが、目標設定と取り組みについては各国とも足並は揃っていないし、アメリカのように政府は離脱を表明しても、州や企業はその枠組を牽引し続けようとしている、“まだら”の対応になっているのは周知の通りだ。
環境への影響が大きい耐久消費財と考えられている自動車の市場規模は、日米欧といった先進国地域でここ数年、規模的にほぼ横ばいのゼロ成長率といえる。EU各国や日本では新車登録や中古車に対し、温室効果ガス排出量に応じて奨励金、または重課金をつける措置が、多かれ少なかれ実施されている。一方、米カリフォルニア州では、公共性の高いバスやHOV(ハイ・オキュパンシー・ヴィークル=2人以上が乗車している車両)に専用で割り当てられていたカープール・レーンをピュアEVにも開くという、使用上のインセンティブ措置もある。要は「エコカー」へと、ユーザーの買い替えを誘導する方策だ。
もう一つは自動車メーカーに対する措置だ。70年代から行われてきたCAFE(コーポレート・アヴェレージ・フューエル・エフィシェンシー=企業別平均燃費)規制の改定に加え、販売台数の一定量をエコカーにすべきという割当規制が絡められている。
日本市場におけるEVの草分けである日産「リーフ」
カリフォルニア州が始めた低排出車の普及を促すプログラムは、90年代当初こそ単純にメーカーにZEV(ゼロエミッションビークル)化すべき販売台数を数%ずつ課しては毎年のように増やしていく方向だったが、今ではZEVを1台販売したら、それを数台分相当としてカウントするクレジット・スコア制になった。というのも、2000年代当初はピュアEVの普及が遅々として進まず、法規制として実効性に問題が生じたのと、その後、完全なZEVでこそないが排出量の少ないハイブリッドカーの普及があったからだ。
つまり今や脱炭素化車両とは、少なくとも行政とメーカーにとっては台数ではなく、クレジットスコアで数えるもので、各メーカーの前年の全販売台数とZEVの割合に応じてマイナス1クレジットあたり5000ドルの罰金を支払うか、ニュートラル(±0クレジット)以上の他社からクレジットを購入しなければならない。
トヨタが1997年に導入した世界初のハイブリッド車、初代「プリウス」
今では同じPHEV(プラグインハイブリッドカー)でも電気で走れるレンジが長いほど高クレジットがカウントされるし、BEV(バッテリー エレクトリック ビークル)でも走行可能な距離が長く、充電時間が短ければ、つまり効率が高いほど、クレジットは高くなる。
ある程度の販売規模をもつ自動車メーカーにとって、2018年に販売されたクルマのクレジット総量の4.5%と定められていた必要クレジットは、2025年には22%にまで上昇する。カリフォルニアの規制ルールで、内燃機関の新車の温室効果ガス排出量はどのぐらいが現在の基準かという話だが、その計算にはスモッグガスなどさまざまな要素や係数が絡み、マイルあるいはガロンといったインペリアル単位(イギリスの度量衡法によって定められた単位)なので複雑であり、かつどの程度の走行レンジや充電効率を備えたPHEVやBEVを売ったかによってクレジットスコア上の相殺量が決まるため、メーカーによってニュートラルとなる線は相対的で、引きづらい。
それでも大まかに算出したところ、内燃機関のクルマで現状、温室効果ガスの目標排出値は約128g/km。2025年にはその約7割の89g/kmにまで減らされる方向だ。そしてBEVの1台はおよそ3~4クレジット相当、水素などのFCV(燃料電池車)なら9クレジット相当、1クレジットは3,000~4,000ドルで取引されることが見込まれている。
トヨタが2014年に発表したFCV、「ミライ」
いわば、テスラが大きなバッテリーを積んで航続距離を伸ばす傾向にあるのも、トヨタやホンダがFCVを推進するのも、こうした背景がある。ただし近年はWell to Wheel(ウェル・トゥ・ウィール、油田から車輪まで)、もしくはライフサイクルアセスメントといった、プロダクト寿命だけでなくエネルギー採掘から消費までのタイムスパンで環境負荷を捉える指標が出てきており、使用するエネルギーの質、つまり生成過程においても温室効果ガス排出が少ないことが求められる。
ホンダのFCV「クラリティ フューエル セル」。これまで企業や自治体へのリースのみだったが、個人向けリースもスタートした

今後のEV市場の伸びについて

アメリカ国内では、コロラド、コネチカット、マサチューセッツ、メリーランド、メイン、ニュージャージー、ニューヨーク、オレゴン、ロードアイランド、ヴァーモント、ワシントンの各州が、カリフォルニア基準の温室効果ガス規制を採択することを決めている。そしてカナダはケベック州に続いて、カナダ政府が、カリフォルニア州と温室効果ガス規制に関して同等の施策を準備するという覚書を交わしている。規制ではなく目標として、カリフォルニア州は2025年に州内のZEVの販売台数を全体の15%にすると見積もっている。
クルマで走ること自体を電化して脱炭素化を推進する原則は欧州も同じで、異なるカタチのCAFE規制が始まっている。一般に「CAFE2020 Automobile」と呼ばれ、2020年の販売量とZEV比率に応じて、来年2021年から罰金とクレジット取引が発生する。
アウディが2018年に発表した同社発のピュアEV「e-tron」
欧州でのニュートラル分岐点はCO2排出量が95g/㎞というもので、登録された車両の1g超えごとに95ユーロの罰金が発生する。要は販売全車両の中で、CO排出量が95g/㎞以上のモデルを売るほどに、それ未満のモデルを販売して相殺することがメーカーには求められる。
ただし2020年販売分に限って、販売車両の平均排出値の95%のみをカウントするという特例緩和が認められており、95という数値の重複が少しややこしい。加えて50g/km以下の車両、つまり高効率のPHEVやBEVには「スーパークレジット」という係数が適用され、2020年販売分では2台、21年分は1.67台、22年は1.33台と割増カウントして平均値を下げることができる。
新規制の影響はてきめんで、欧州市場では2019年内にSUVの新車登録が滑り込みで加速し、逆に2020年が明けてコロナの影響が出る以前の1月だけでも、BEV、PHEVともに、それまでの4倍までシェアを伸ばした。特にフランスでは、BEVとPHEVの合計で従来2.7%だった販売シェアが、11%にまで上がったほどだ。欧州でのBEV+PHEV合計シェアはこれまで7%ほどに留まり、2020年以降はどう増えていくかだけでなく、そのペースこそが要注目の的なのだ。

サステナブルな時代のクルマ選び

確かに、ハイブリッド>PHEV(プラグインハイブリッド)>BEV(バッテリー電気自動車)という具合に、パワーユニットの電動化の度合いに応じてガス排出量は減る。だがユーザーにとっては、充電ステーションの整備や電力供給というインフラの問題、給油か充電かという日常的な使い勝手、さらに料金体系にまで変化や影響を及ぼす点が、プロダクトとしてのクルマそのものや、自家用としての維持・使用コストの見通しを分かりにくくしている。
コストパフォーマンスだけがクルマ選びの基準になりやすいことは、サステイナブルな移動手段を考える上では問題だが、純粋に電気のみで走るBEVはいまだ高価であり、増えてきたとはいえモデルの選択肢も少ない。さらに、インフラ普及の問題に加え、バッテリー寿命や保証、リサイクル性の問題もある。
従来のガソリンやディーゼルから、動力源を部分的に電気に切り替えるPHEVも拡がり出しているが、EV同様、バッテリーのリサイクルの問題は残る。要は「(車両価格も使い勝手も)手頃でクリーンなクルマ」がまだ現れていない上に、使い勝手の面でもユーザーには変化が強いられる。
よって今現在、世界各地の自動車市場で起きていることは、EVがブームとかディーゼルが敵視されているという話ではない。クルマで移動する=何かしらの動力源で走るのに、過密地域ほど電気モーターで、長距離移動ほどディーゼルのような熱効率の高い内燃機関で賄いたいが、大半のドライバーの用途はその中間で、ガソリンとハイブリッドで事足りてしまう。
ジャガー「I-PACE」
つまり近頃のクルマ選びは、服を買う際にまずサイズを選ぶのにも似て、用途や乗り方に応じて電化の割合を100~0%(BEV〜エンジン車)の間で決めることでもある。加速性能や省燃費といった一義的な理由ではない。どの動力源で走るか?に、ボディのカタチやサイズといった要素が加味されると、世界的に最大公約数として好まれやすいのが、今も流行中のSUVだったりするのだろう。
自分の使用環境や乗り方に合わせて、電化すべきか否か、またはどの程度を電化するか?というところだが、予算にも時間にも余裕があるならBEVがいい。脱地球温暖化という点では最もクリーンな自動車であることは確実だし、走行中の静粛性やスムーズさでは内燃機関の比ではない。
ただし出先では急速充電ステーションの渋滞行列など、不確定要素にも向き合わねばならない。バッテリー寿命については、メーカーや販売店の差配ひとつだが、容量保証プログラムや、テスラのように走行距離無制限での保証を謳う例もある。
フォルクスワーゲン「ID.3」
昨年はジャガー「I-PACE」の欧州カー・オブ・ザ・イヤー受賞などが話題になったが、今年はフォルクスワーゲンの「ID.3」というゴルフと同じぐらいの車格のBEVが市販予定だし、よりコンパクトなBセグメントのプジョー「208」と「2008」はモデルチェンジして「e-208」「e-2008」をすでに欧州で発売しており、コロナの影響で遅れは出ているが納車も始まっている。

ユーザーのタイプ別にみた最適なパワートレーン

もし年間の走行距離が1万km近くで、住まいが一戸建てで家庭用200V充電器を用意できる環境なら、PHEVへの移行を考えた方がいい。欧州メーカーのPHEVは外部ステーションでの急速充電に対応していないものが多いが、それは電気がないと走れない(=ヴァルネラブル、より脆弱性が高い)BEVに急速充電スポットを譲るべき、との考えに基づいている。
フォルクスワーゲン ゴルフGTE
普通充電でゆっくりバッテリーのセルを満たす方が、そもそもバッテリー寿命にも影響しにくい。家を出る時は基本的にフル充電であれば走行域のかなりの割合を電気モーターで賄えるため、給油する機会自体が少ないはずだ。平日の移動は近隣がメインで、遠出はそこそこ頻繁にするものの、300㎞以遠なら電車か飛行機、でもコンパクトカーは小さ過ぎるという人には、PHEVは向いている。
トヨタ プリウスPHV
PHEVは、Dセグ以上の大きなクルマ以外の選択肢がフォルクスワーゲン「ゴルフGTE」やトヨタ「プリウスPHV」に限られる印象だが、BMWの「225xeアクティブツアラー」は見逃すべきではない。後輪モーターで、電気で駆動する間はBMWらしい力強さと驚くほどの速さも味わえるし、実用効率に優れたパッケージングもいい。
BMW「225xeアクティブツアラー」
逆に平日はほとんど乗らず、週末などにレジャーや帰省など、大人数を乗せて長距離を走ることが多い、あるいは毎日の通勤距離が長くてとにかく走行距離がかさむというユーザーなら、ディーゼルが有利だろう。
燃費コストではBEVの電費コストの方が優っても、車両価格の小さいディーゼルの方が、元は取りやすい。何より週末の外出時などに、PHEVもそうだが電欠の心配をせずに済む。BEVでは、急速充電ステーションでの充電補給を前提とすること自体が、例えば小さな子どものいる家庭にはリスク要素になり得る。
HDi130と呼ばれるプジョーの1.5リッター最新ディーゼルを搭載する「308」
現行のディーゼルユニットで最もバランスの高さを感じさせるのは、プジョー・シトロエンの最新ディーゼルで、HDi130と呼ばれる1.5リッターターボだ。並み外れて軽快さとトルクキーなディーゼルの魅力という点で、並ぶものがない。
マツダの新世代クリーンディーゼル「スカイアクティブ-D」を搭載する「CX-5」
パワフルな走りが好みなら、マツダのスカイアクティブ-D搭載モデルや、ボルボのD4を積んだXC60やV60やV90CC、またはD5を積むXC90がある。ボルボではディーラーオプションの「ポールスターパッケージ」装着で、トルクがノーマル比約プラス15%のトップアップも可能だ。
ボルボのクリーンディーゼルエンジン「D4」を積んだ「XC60」
残るはガソリンエンジン車だが、アクセルを踏み込んだ時のなめらかさや高速道路での静粛性はBEVに譲るし、燃費ではPHEVにはもちろん、通常のハイブリッドにも敵わない。最近ではアイドリングストップ機構を装備するのが当たり前で、ゼロ発進からごく初速域だけでも48Vマイクロモーターで駆動アシストを行うマイルドハイブリッドのガソリン車も増えてきた。
これは内燃機関がもっとも苦手とする、静止から運動エネルギーを作り出す仕事を補助するという意味で、とくに大型のサルーンやエステート、SUVなどの温室効果ガス排出削減に効果あるメカニズムではある。だが、ガソリンエンジンを積極的に選ぶ理由は、パワーユニットとして相対的に軽いがゆえの運動特性のよさ、回転フィールのドラマチックさといった“味わい”、そして最も古い動力源であり続けているがゆえの、整備メンテナンスの容易さや修理パーツの安価さといった信頼性に尽きる。
3リッター直6ガソリンエンジンにISG(インテグレーテッド スターター ジェネレーター)を組み合わせたマイルドハイブリッド車、メルセデスAMG「GLE 53 4マチック」
つまり、他のパワートレインと比べてガソリンは最もオールマイティで無難であるのは事実だし、その意味では、自分の乗り方が漠然としていて、まだ分からないといった人にも勧められる。
ちなみに走行距離が日本よりも圧倒的に長い、ヘビーユースが基本の欧州市場でも、新車の耐用年数は今や10年を超えている。クルマによってはもっと長い期間、中古車として乗られ続けるし、国内にとどまらず途上国へ輸出されて中古車として第2、第3の“ライフ”をまっとうすることも考えられる。
その点を鑑みれば、メカニズム的に最新で複雑であることより、シンプルなクルマの方が、サステイナブルであることは十分に考えうる。冒頭でも説明した通り、「サステイナビリティの定義」として国際的に了解されていることは、経済・社会・環境の3つが、どれか一つのスタンドアローンではなく不可分であるという前提で、地球規模の発展に向かい合うことなのだから。
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