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2019年11月5日
[短期連載3] 建築と芸術とエンターテインメントと美食の都、シカゴへ──アート編|TRAVEL
建築と芸術とエンターテインメントと美食の都、シカゴへ──アート編
アメリカを代表する美術館からパブリックアートまで、アートが暮らしに溶け込む街
ニューヨーク、ロサンゼルスに次ぐ北米第3の都市、シカゴ。摩天楼発祥の地であるここは、どことなく街の雰囲気がニューヨークに似ている。人口や面積がニューヨークの数分の一に過ぎないコンパクトなこの街は、アートや建築、エンターテインメントや美食など、ニューヨークに引けをとらない魅力的なコンテンツがギュッと凝縮されているのだ。そんなシカゴの魅力を、テーマ別に紹介していく短期連載。第3回は、アートをテーマにシカゴの街を巡る。
Text by YAMAGUCHI Koichi
アメリカ三大美術館の一つであり、印象派の世界的コレクションを誇る──シカゴ美術館
シカゴにおけるアートの拠点として真っ先に上げられるのが、「シカゴ美術館」である。シカゴ・アカデミー・オブ・デザインという美術学校を前身とし1879年に設立された同館は、ニューヨークのメトロポリタン美術館、ボストンのボストン美術館とともにアメリカ三大美術館に数えられることでも知られている。古代美術から現代美術まで古今東西の約30万点もの作品を所蔵し、8000点以上を展示する、極めて大きな規模を誇る美術館なのだ。
エル・グレコやルノワールといった、教科書でおなじみの作品も数多展示されており、アート好きでなくても十分に楽しめるのも特徴だ。ちなみに、スペインはエル・グレコの作品の海外への持ち出し(売買)を禁止しているが、シカゴ美術館が所蔵する『聖母被昇天』は禁止令がでる前に同館によって購入されたもので、スペイン国外にあるエル・グレコの作品では最大のものだという。
同館において、特にコレクションが充実しているのが印象派だ。モネやルノワールといった印象派の画家たちがまだフランスで評価されていない時代、彼らをパトロンとして支援したのがシカゴの富豪たちだったからだ。例えば、印象派を代表する画家、クロード・モネの『積みわら』は、25点の連作のうち6点を所蔵している。
シカゴ美術館において、最も有名なが、ジョルジュ・スーラの『グランド・ジャッド島の日曜日の午後』だ。無数の繊細な点で構成された点描法の代表作であり、後期印象派の作品のなかで最も重要なものの一つと言われている。
20世紀のアメリカ美術のコレクションが充実しているのもシカゴ美術館の特徴だ。なかでもアメリカ人に絶大な人気を誇るのが、エドワード・ホッパーの『ナイト・ホークス』だ。深夜営業のダイナーでスタッフと3人の客が、それぞれの想いにふけるシーンを描いた同作について、ホッパーは「恐らく私は、無意識のうちに大都会の孤独を描こうとしたのだと思う」と語ったという。そんな現代人ならではの孤独感が、多くの人を引きつけるのだろう。
ちなみに、シカゴ美術館の本館は1893年のシカゴ万博の際に建てられた歴史的な建物で、1992年に完成した日本ギャラリーは安藤忠雄、そして2009年にオープンした新館はレンゾ・ピアノが設計を手掛けるなど、建築自体にも見る価値がある。これも建築の街、シカゴならではといえるだろう。
シカゴ美術館
111 サウスミシガンアベニュー シカゴ イリノイ州60603
https://www.artic.edu/visit?lang=ja
https://www.artic.edu/visit?lang=ja
世界最大級のモダンアート・ミュージアム──シカゴ現代美術館
シカゴにおける現代アートの拠点、シカゴ現代美術館(MCA)も、シカゴを訪れた際には必ず立ち寄りたいアートスポットだ。
1967年に創設された同ミュージアム。絵画、彫刻、写真、映像など、幅広いジャンルにわたる数千点の作品を所蔵する、世界最大級の現代美術施設だ。所蔵作品はすべて1945年以降のもので、アンディ・ウォーホルやフランシス・ベーコンをはじめ、著名なアーティストのコレクションも数多所蔵しており、現代美術に詳しくない人でも楽しめる美術館となっている。
1996年に竣工した現在の建物は、東西ドイツが統一した際にベルリンの再建で活躍したドイツの建築家、ヨーゼフ・パウル・クライフスによるもの。シカゴで活躍したミース・ファンデル・ローエのモダニズム建築と、伝統のシカゴ派の様式を融合させたモダンな建築自体も見所の一つである。ちなみにクライフスは、ベルリンの古い駅舎をリノベーションした「ハンブルク駅現代美術館」を手掛けたことでも知られている。
美術館に併設されたレストラン/バー「マリソル」。黒人として初めてターナー賞を受賞したイギリス人アーティスト、クリス・オフィリの壁画が目を引く © Museum of Contemporary Art Chicago
シカゴ現代美術館は、オープン当初より、興味深い企画展を開催してきたことでも注目を集めてきた。たとえば、パリのポンヌフ橋を布で包んだ「梱包されたポンヌフ」をはじめ、建造物などを梱包するプロジェクトで知られるパブリックアートの作家、クリストがアメリカで初めて手掛けたのが、シカゴ現代美術館を梱包するプロジェクト(1969年)だった。
1970年には、ロイ・リキテンシュタイン、ロバート・ラウシェンバーグ、そしてアンディ・ウォーホルといった現代美術界のスターたちの個展を開催。また、1988年にジェフ・クーンズの初めての個展を開催するなど、常に新しい才能に注目し、興味深い企画展を行ってきたことでも高い評価を得ている。
今回、訪れた際には、地元シカゴ出身のアーティスト/デザイナーであり、自身のファッションブランド「オフ-ホワイト c/o ヴァージル・アブロー」を手掛けるほか、2018年にはルイ・ヴィトンのメンズ・アーティスティック・ディレクターに就任するなど、ストリートカルチャーとモード界においていま最も注目を集めているクリエイターの一人であるヴァージル・アブローの初となる個展「フィギュアーズ・オブ・スピーチ」(6月10日-9月22日)が開催されていた。
アブローのこれまでの活動を、7つのテーマをもとに振り返る今回の特別展。 「Fashion」や「Music」、そして「Black Gaze(黒人の視点)」などのテーマからなる展示は、黒人として生まれ、モード&ストリートカルチャーにおける時代の寵児となった彼の創造性やアイデンティティを目の当たりにできる内容となっている。
シカゴ近代美術館では、ミシェル・オバマに愛用されていることでも知られている、ロンドンを拠点に活動するナイジェリア人ファッションデザイナー、デュロ・オロウの個展など、今後も興味深い特別展を予定しているから、シカゴを訪れる際はぜひチェックしていただきたい。
人々の生活にアートが息づく街
シカゴの街を歩いていて印象的なのは、そこかしこにパブリックアートが存在することだ。街全体がアート空間と化しているのである。ここでは、いくつか代表的なものを紹介したい。
シカゴの中心部、ループ地区を歩いていると、チェイスタワーというビルの広場に、巨大なモザイク壁画が現れる。マルク・シャガールの「四季」(1974年)だ。幅21メートル、高さ4.3メートル、奥行き3メートルの直方体の4面に壁画が施された大きな作品は、シャガール自身がシカゴに寄贈したものだそうだ。
チェイスタワーから歩いて5分ほど、役所などが入居するリチャード・J・デイリー・センター前の広場にあるのが、パブロ・ピカソによる屋外彫刻「無題」だ。ピカソならではのユーモアあふれる抽象的な造形もさることながら、高さが15メートルを超えるというその大きさに目を奪われる。こちらの作品も、ピカソ自身がシカゴ市に寄贈したものであり、地元の人々からは「シカゴピカソ」の名で親しまれているという。
同じくループ地区に立つ、ミース・ファン・デル・ローエが設計を手掛けた連邦センタービルの広場に設置されているのが、アメリカの彫刻家、アレクサンダー・カルダーによる巨大な屋外彫刻「フラミンゴ」(1974年)だ。シカゴピカソと同様、全高が15メートルを超える大きさと、周囲にある鋼鉄の黒いビル群とは対照的な鮮やかな朱色が印象的だ。
ループ地区の東側に広がる自然豊かな公園「ミレニアムパーク」を訪れると、今度は不思議な造形をした鏡面体のオブジェに目を釘付けにされる。ロンドンを拠点に活動するインド出身の彫刻家、アニッシュ・カプーアが手掛けた『クラウド・ゲート』(2006年)だ。サイズは幅20メートル、高さ10メートル、奥行き13メートルと巨大で、どこか宇宙から飛来したUFOのようでもあるが、豆を彷彿させる形から、「ザ・ビーン」の愛称が与えられているのだそうだ。
同じくミレニアムパーク内にあり、人々の注目を集めていたのが、高さ15.2メートルの向かい合ったタワーに、さまざまな人種のシカゴ市民の顔が映し出される作品『クラウン・ファウンテン』(2004年)だ。スペインを代表する世界的アーティスト、ジャウメ・プレンサによるもので、映し出された顔は表情を変化させつつ、数分おきに口の部分から噴水のように水が吐き出す。天気のいい日には子どもたちが嬉々として水遊びをするなど、街とアートが一体化したシカゴならではのパブリックアートである。
問い合わせ先
シカゴ市観光局
https://www.choosechicago.com/