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2021年3月31日
まさに「イブニングドレスに身を包んだF1マシン」そのものだった──フェラーリ ローマに試乗|Ferrari
Ferrari Roma|フェラーリローマ
まさに「イブニングドレスに身を包んだF1マシン」そのものだった
フェラーリのまったく新しい4シーターGTモデルとして、2019年11月にワールドプレミアされ、2020年4月に日本にも上陸したローマ。イタリアの古都を名をいただく同モデルに、日本の古都、京都で試乗した。
Text by YAMAGUCHI Koichi|Photographs by Ferrari Japan
往年のフェラーリGTモデルのヘリテッジを現代に蘇らせる
2019年11月、その名の通りイタリアの古都でワールドプレミアされたフェラーリ ローマ。会場に足を運んだ筆者が印象的だったのは、その演出だった。バーカウンターやシャンデリア、アンティーク調のチェアやソファが設えられた空間はまるでラグジュアリーホテルのラウンジのようで、巨大なスクリーンにはイタリア映画界の巨匠、フェデリコ・フェリーニが、50年代ローマのセレブリティたちの享楽的なライフスタイルを描いた作品「ドルチェ・ヴィータ(甘い生活)」(1960年)のシークエンスが映し出されていた。
フェラーリのマーケティング&広報部門最高責任者であるエンリコ・ガリエラ氏が、件のバーカウンターからカプチーノを片手に現れると、そうした華やかなりし頃のローマのライフスタイルを、現代に蘇らせるというコンセプトから同車は生まれたのだと、世界中から駆けつけたプレス陣に語った。
アルファロメオのワークスドライバーだったエンツォ・フェラーリが、レースで勝つためにフェラーリを興したというエピソードが物語るように、フェラーリのホームグラウンドはサーキットだといえるだろう。とはいえ、ことプロダクトカーに関しては、フェラーリは創業時よりエレガントなボディと豪奢なインテリアが奢られた美しいGTを手掛け、世のセレブリティたちを魅了してきた。たとえば、スティーブ・マックイーンの元妻、ニール・アダムスが、マックイーンに贈ったことで知られる「250GT ベルリネッタ ルッソ」のように。
フェラーリ ローマは、まさにそうした往年のGTのヘリテッジを、現代的な感性と最新テクノロジーで現代に蘇らせたモデルである。実際、ロングノーズ・ファストバックのクラシカルなフォルムをまとうエクステリアは、「250GTベルリネッタ ルッソ」や「250GT 2+2」など50〜60年代のフェラーリのGTモデルからインスピレーションを得ているとフェラーリではしている。
フェラーリに乗るときはいつでも心が踊るものだが、彼の地での発表会でそのスタイリングに一目惚れしたローマゆえ、今回、日本で再会した際はなおさらだった。陳腐な表現だが、ホント、惚れ惚れする美しさなのだ。
抑揚のある曲面で構成された伸びやかなボディは、特にマスキュリンな前後のホイールアーチが印象的だ。キャラクターラインやエアベントといった昨今のフェラーリではおなじみのデザイン的なアイコンは一切存在せず、現行フェラーリの他モデルとは一線を画すことを主張している。そうしたデザインディテールの手を借りることなく、優れた彫刻家が、金属の塊から削り出したかのような造形美で勝負しているのだろう。
事実、ミリマリズムともいえるフォルムを追求すべく、フェラーリではリアスクリーンと一体化した稼動式リアスポイラーを採用。ロードラッグ(LD)、ミディアムダウンフォース(MD)、ハイダウンフォース(HD)の3つのポジションに展開するそれは、HDの位置でリアスクリーンに対して135度の角度となり、250km/hで走行時に約95kgのダウンフォースを発生する。
ローマでは、こうしたミニマルなスタイリングと優れたエアロダイナミクスを両立させるべく、エアロダイナミクス部門とスタイリングセンターが日々緊密な連携を重ね開発を進めてきたという。「F1マシンがイブニングドレスをまとう──それが、ローマのデザインテーマでした」とは、フェラーリのスタイリングセンターを率いるチーフデザイナー、フラビオ・マンツォーニの弁だが、まさに言い得て妙である。
車内からもエクステリアデザインを楽しめる
パワートレーンに目を向けると、心臓部には4年連続でインターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤーを獲得している3.8リッターV8ターボを搭載。ローマでは、新しいカムプロファイルを採用したほか、タービンの1分あたりの最大回転数が5,000回転高められるなどの手が加えられている。
新たに開発された8段デュアルクラッチギアボックスはSF90に採用されたものの派生型で、7段の従来型よりコンパクトで、6kg軽量化されているという。ついでに触れると、ボディシェルとシャシーにも最新の軽量化技術が取り入れられ、結果、パワーウェイトレシオは2.37kg/cvを達成している。
ビークルダイナミクスでは、6世代目へと進化したサイドスリップ・コントロール6.0がフェラーリのGT系モデルとして初採用された。また、ブレーキの制動力を調整してヨーイングを制御するフェラーリ・ダイナミック・エンハンサーも搭載されるなど、フェラーリの最新技術がこれでもかとばかりに投入されている。
ドライバーズシートに身を委ねると、フロントスクリーン越しにはフロントフェンダーの豊かな峰が、バックミラーにはアスリートの筋肉のようなリアフェンダーの張り出しが映し出され、改めて美しいフォルムに惚れ惚れさせられる。車内からもエクステリアデザインを楽しめるという点では、ポルシェ911と似ているかもしれない。
一方、ブラックとクリームの上質なフルグレインレザーに赤いアクセントとステッチが施され、クロム加工のアルミニウムやカーボンファイバーなど“リアル”な素材がぜいたくに配されたインテリアは、ラグジュアリーなGTの雰囲気が見事に演出されていて、エクステリアと同様にハッとさせられる。インストルメントクラスターにはナビやオーディオ情報なども表示できる16インチHDスクリーンが、中央には8.4インチHDセンターディスプレイが備わるなど、インフォテイメントも最新仕様だ。
2682万円というプライスはリーズナブルかもしれない
ステアリングホイールに設置されたスターターボタンを押してフロントのV8ツインターボユニットに火を入れ、京都の狭い路地をATモードで走り出す。前述の新型8段デュアルクラッチ式トランスミッションは、オートマッチック車と遜色ないほどスムーズに、1,000〜2,000rpm辺りで最適なギアへと駆動力をつなぐ。上質なクーペをドライブしている感覚だ。
エンジンは低回転域でも低音の効いたサウンドを奏でるが、オーバー600psのハイパワーユニットであることが嘘であるかのごとく扱いやすい。街中でのストップ&ゴーでも、ドライバーの右足の動きに忠実に、なめらかに加減速を繰り返してくれる。アクセルやブレーキのコントロール性が極めて高いから、ステアリングを握った瞬間から体にしっくりなじむ。
フェラーリGT系モデル初となる5モードを備えたマネッティーノ(ドライビングモード)を「ウェット」、もしくは「コンフォート」にセレクトしている限り、乗り心地はタウンスピードでも上々。スタイリングの印象通り、上質でエレガントな走りが印象的だ。もちろん、それなりに締め上げられたサスペンションにより、路面の状況によっては輪郭のはっきりとした突き上げを伝える。しかし、フェラーリならではの高いボディ剛性やサスペンションをはじめとする各パーツの取り付け剛性ゆえ、ハーシュネスや振動が増幅されることがないから、不快じゃない。
京都の交通量の多い市街地を東へと行き、山中越えといわれる峠道を抜ける。すると、京都と滋賀県間にそびえる比叡山の山腹を縫う、比叡山ドライブウェイと奥比叡山ドライブウェイが続く。起伏に富んだワインディングロードでのローマは、まさに「イブニングドレス」という形容がふさわしいエレガントな外観とは裏腹に、スーパースポーツそのもの走りが楽しめる。
とにかく身のこなしが軽快で、適度な重さのステアリングをコーナーの頂点に向けてじわりと切り込むと、ロールをしっかりと抑えながら、優美なロングノーズを鋭くインへと向ける。フロントミドシップレイアウトのせいか、ロングノーズでありながら、ドライバーを中心に曲がっていく感覚があるのも、好感が持てる。
最高出力620cvと最大トルク760Nmというアウトプットを誇るおなじみのV8ユニットは、ターボエンジンのネガを一切感じさせないのがいい。回転数の上昇とトルクの盛り上がり、そしてサウンドの高まりをピタリと一致させながら、NAユニットのごとく7,500rpmのレッドゾーンまでシャープに吹け上がるのだ。コーナー頂点からアクセルペダルを踏込むと、低回転域からでも間髪入れずにリアタイヤが地面を蹴り上げ猛然と加速する。とにかく絶品のエンジンである。
シャープなハンドリングといい、パワフルかつレーシーなエンジンといい、サーキットを走らせても、きっと十分以上に楽しめるだろう。走れば走るほど、「イブニングドレスに身を包んだF1マシン」というフレーズが説得力を帯びてくる。
短い距離ではあったが、名神高速でのクルージングも体験した。速度100km/h程度で8段ギアをセレクトすると、エンジン回転数1,500rpmほど。つまり車内は静かで快適そのものだ。しっとりと安心感のあるステアリングフィールや、アクセルペダル操作で思うように加減速が可能なパワートレーンなど、単に快適なだけではなく運転自体も楽しめるのは上質なGTならではだろう。GTとしての資質とパフォーマンスの見事な融合ぶりは、たとえばポルシェ911ターボに勝るとも劣らない出来だと思った。少々車高が低く車幅が広いことを除けば、911ターボと同様に高い日常性も備えている。しかも、ローマには、唯一無二の美しいスタイリングという美点もある。2682万円というプライスは、もしかしたらリーズナブルといってもいいのかもしれない。
Spec
Ferrari Roma|フェラーリ ローマ
- ボディサイズ|全長 4,656 × 全幅 1,974 × 全高1,301 mm
- ホイールベース|2,670 mm
- トレッド前/後|1,652 / 1,679 mm
- 車両重量|1,570 kg
- エンジン|3,855 cc V型8気筒DOHC ターボ
- ボア × ストローク|86.5 × 82.0 mm圧縮比|9.45:1
- 最高出力|456 kW(620 cv)/ 5,750-7,500 rpm
- 最大トルク|760 Nm / 3,000-5,750 rpm
- トランスミッション|8段F1デュアルクラッチ
- 駆動方式|FR
- タイヤ 前/後|245/35ZR20 / 285/35ZR20
- 0-100km/h加速|3.4秒
- 0-200km/h加速|9.3秒
- 最高速度|320km/h