フェラーリの新型+2ミッド・フロントエンジンGT「ローマ」に試乗|Ferrari

今回の試乗コースは大半がワインディングで、アウトストラーダ区間は限られていた。しかし、その高い直進性からは、長距離旅行での快適性を窺い知ることができた

CAR / IMPRESSION
2020年10月26日

フェラーリの新型+2ミッド・フロントエンジンGT「ローマ」に試乗|Ferrari

Ferrari Roma |フェラーリ ローマ

なぜフェラーリ・ローマは「ドルチェ」なのか?

“現代版ドルチェビータ”をコンセプトに、昨今のフェラーリとは異なるエレガントなスタイリングをまとって2019年にデビューしたフェラーリの全く新しいGTモデル「ローマ」。同モデルの国際試乗会が、コロナ禍の9月初旬開催された。イタリア在住のジャーナリスト大矢アキオ氏によるリポートをお届けする。

Text by Akio Lorenzo OYA
Photographs by Ferrari、Akio Lorenzo OYA

未曾有の環境下で

フェラーリによる新型の+2ミッド・フロントエンジンGT「ローマ」。その国際試乗会が、9月初旬にイタリア北部ピエモンテで開かれた。
新採用された8段デュアルクラッチ・ギアボックス、フェラーリGT初の5ポジション操縦モード切り替えスイッチ「マネッティーノ」など、スペックについては、既報を併せて参照いただきたい。
エンジンやサスペンションなどを統合制御するモードセレクター「マネッティーノ」は、フェラーリ製GT初の5ポジションとなった
ところでこのローマ、昨2019年の発表時にアナウンスされているとおり、現代版“ドルチェ・ヴィータ”がコンセプトという。
そう聞いて、当然のことながら、誰もがフェデリコ・フェリーニ監督による1960年映画「甘い生活(ラ・ドルチェ・ヴィータ)」を真っ先に思い出すだろう。戦後高度成長期のローマにおける享楽的な生活が描かれたマルチェッロ・マストロヤンニ主演作品である。
いっぽう、筆者は改めてdolceの意味を辞書で調べてみた。形容詞として「甘い・穏やかな・甘美な」、ついでに名詞として「菓子・ケーキ・デザート」と記されている。
ローマの何がdolceなのか? そうした思いを抱きながら、開催地であるスローフード活動の中心地でもあるブラの町に向かった。
メータークラスター内の16インチHDスクリーン。開発にあたっては、ステアリングホイールとともに、最新のHMI技術が駆使されている
かつてサヴォイア家の館だったホテルに到着すると、まずはマラネッロからやってきたスタッフに体温を計測された。
35℃台という低体温を笑われるかと思ったが、幸いことなきを得て、部屋で旅装を解く。
建物の中庭が、今夜のプレゼンテーション会場だ。近隣の教会から夕方の鐘の音が響いてくる。
驚いたことにその晩、欧州各地から招待されていたジャーナリストは筆者も含め、わずか6名であった。新型コロナ感染症対策として、7月末から毎回少人数を招待しながらセッションを重ねてきたという。
プレゼンテーションのQ&Aも、実際に同席したのはグローバル・マーケティングダイレクターのエマヌエレ・カランド氏含む3名。各部門の担当者たちは自宅などから中継、という徹底したものだった。思えばフェラーリは、2020年4月にいち早く病院用人工呼吸器用パーツの生産に乗り出している。この企業が未曾有の事態に真剣に取り込んでいることを窺わせた。

ドルチェは「穏やかさ」

実車の話に移ろう。
ローマのデザインにあたっては、1950〜60年代、まさにドルチェ・ヴィータ時代のGTモデルをモティーフに、ミニマリズムを意識したという。
インテリアは、従来のドライバーファーストとは一線を画し、パッセンジャーにもほぼ同等のコンフォートが確保されている
不要なエアインテークを廃し、フロントも従来のグリルではなくパーフォレート加工されたものを採用した。
さらに面白いことに、スクリーンの中でデザイン担当副社長のフラヴィオ・マンツォーニは、キャビン部分から造形を模索したと語る。
キャビンといえば、インテリアでは従来のフェラーリがドライバー優先のコクピットであったのに対し、ローマではドライバー/パッセンジャー双方に、ほぼ同一の“セル”を与えている。
その心は? 筆者の質問に対して、デザイン関連の代表としてリモート出席していたアンドレア・ミルティッロは、「フェラーリにとってコ・ドライバーの存在は、より重要になっている」と解説する。そして「2人による新たなファン・トゥ・ドライブを求めるカスタマーたちに訴求していく」と付け加えた。助手席側にもオプションで8.8インチ・フルHDカラー・タッチスクリーンが用意されるのもそのためだという。ローマのdolceは「穏やかな」空間も意味するようだ。
今回のブリーフィングでも、ドライビング体験の共有がユーザーの関心事項であることが強調された。助手席用8.8インチ・フルHDタッチスクリーン(オプション)は音楽、ナビ、空調操作だけでなく、車両パフォーマンスの数値も確認できる
もう一つ、ローマで目を惹くものといえば、新モデルレインジのステアリングホイールと、16インチのインストルメントクラスターである。一見それらは、エキセントリックなアイキャッチかと安易な想像をしていたが、そうではなかった。
「eyes on the road, hands on the steering wheel」をモットーに、最上のHMI(ヒューマン・マシーン・インターフェイス)を実現すべく、最新のアイトラッキング技術を駆使したという。プレゼンテーションでは、的確なスイッチ配置と、必要な情報を確実に伝達することが追求された。数値で示せば、従来モデル比で、不要な視界移動はマイナス4%、操作の遅れはマイナス20%を達成しているという。エモーションだけでない、科学なのである。

ドルチェは「優しさ」

翌朝、ふたたび検温したあと、庭でローマの実車と対面する。
その日1日を共にするため筆者に用意されていたのは、「ロッソ・ポルトフィーノ」と名付けられた深みのある赤のクルマであった。
プロポーションは極めて端正で、見る者にいやがうえにもパワーを想起させた一世代前のスーパースポーツカーたちと明らかに異なる。
フロントミドに収まる3855cc V8ツインターボエンジンを眺める。多孔型フィルター(GPF)の採用で、現行のヨーロッパで最も厳しい排出基準「ユーロ6D」をクリアしている
ヘッドライトのデザインも、ここ10年以上にわたって続いた威圧的なつり目的デザインではなく、切れ長の優雅なものだ。電動スポイラーも格納状態では、まったくその存在はわからない。
個人的には、こういう慎ましやかなフェラーリを待っていた。
エンジンスタートはステアリング下部のタッチ式スイッチだ。
走り出してから見渡すフロントフードや、ドアミラーに映るリアフェンダーの豊満さは、フェラーリであることを操縦する者に語りかける。昨今デジタルアウターミラーに興味津々な筆者であるが、この車ばかりは物理的なミラーに映る像のほうが、よりクラシカルでふさわしい。
ボディ剛性は、90年代の8気筒モデルからすると天地の差で向上している。
さらに今回初めて5段となったマネッティーノを「コンフォート」にしておくかぎり、中世都市独特の石畳も、昨今の補修予算不足によるイタリアのいい加減な舗装も、さして不快ではない。これだけで日常使用できるフェラーリを感じることができる。
タイヤはポルトフィーノと同一のフロント245/35ZR20、リア285/35ZR20である
スロットルも礼儀正しくセッティングされている。街乗りではペダルを微妙にオンオフするだけでスムーズにクルーズできる。いっぽう、さらに踏み込み続けると、V8エンジンはさらに覚醒し、心地良いファンファーレを奏でながら加速を続けてゆく。日ごろスピードに対して過激なパッションを持ち合わせていない筆者でも、思わず笑みがもれてしまうと記せば、その感覚がお分かりいただけるだろう。エンジニアが目指したとおり、ターボラグも感じられない。
ブレーキもドライバーの踏力に極めて繊細に反応してくれる。したがってタウンユースにまったく問題ない。同時に、パニックブレーキに対する応答も的確で、前390mm✕34mm、後360mm✕32mmというスペックにふさわしい制動力を発揮する。
ちなみに、この最新のフェラーリでは、路肩の標識を刻々と自動読み取りしてメーター上に自動表示してくれる。こちらは心のブレーキといったところだ。
JBL製オーディオは、最高の音質を期待するユーザーにはあまり適さないが、エンジン✕エグゾーストのサウンドのBGMとしては十二分である。
今回230km以上にわたるドライブは、一部アウトストラーダ区間を伴っていたものの、大半はイタリア屈指のワイン産地を周囲に抱くワインディングロードだった。
トランクリッド内側には、各車ごとのオプション装備が列記されている
マネッティーノを「スポーツ」に切り替える。ローマは常にコーナーを的確にトレースする。勢い余って飛び込んで後悔しても、ペダルを穏やかにオフにするだけで、何事もなかったように抜けてゆく。620psという溢れるパワーを秘めながら、少なくとも公道上では、それを持て余すことは一切ないのである。
ブドウ畑の間のときおり村々では、しばしローマを止めて、中世の旅人に思いを馳せた。ただし、ドーポ・プランツォ(昼食後)の静寂の中、たとえアイドリングとはいえ、やはりフェラーリのエグゾーストノートははばかれる。そうしたとき、スタート&ストップ機能はなんとも周囲に優しい=ドルチェなデバイスである。
散歩中のお年寄りに「ベッラ・マッキナ(いい車だな!)と声をかけられるだひ説明していたものだから、その日の夕方は筆者が最後の帰着となってしまった。

ドルチェは「内面性」

イタリア語辞書のドルチェに話を戻そう。用例の末尾にある例は。こうだ。
「イル・ドルチェ・スティーレ・ヌォーヴォ」。il dolce stile nuovo とは、13世紀イタリアにおける、清新体派といわれる詩や文学運動のことだ。
中世カトリック文化が根底にありながらも、ヒューマニズム、とくに美しい女性の内面を洞察したのが特徴である。
これがローマのリモコン・キー。フロントフード上に置くと、バッジと見紛うばかり。
いっぽう、フェラーリ創立者エンツォ・フェラーリは、常にサングラスをしていることを指摘されると「自分の内面を他人に見せたくないためだ」と説明していた。
いずれも「深い内面」がキーワードだ。
このフェラーリの意欲的な新型車には、オプションでSAEレベル1相当のアダプティブ・クルーズコントロール、自動緊急ブレーキ、車線逸脱警告、ブラインドスポット検知、サラウンドビューカメラがパッケージまで選択できる。
開発の最終段階というエクスキューズがあったので評価は避けるが「チャオ、フェラーリ」の呼びかけで起動するボイスコマンドさえも用意される。
クラシックともいえるエクステリアの中に秘めているのは、従来のフェラーリからは想像できないほどモダンで、ドライバーやパッセンジャーをときに守り、ときに喜びに導くデバイス群。この組み合わせがローマの、もうひとつのドルチェに違いない。
リモコンキーの背面。昨今のドイツ系プレミアムカーのキーと比較して、ミニマリズムが徹底している
もちろんフェラーリは、従来のスポーティングマインド溢れるフェラリスタたちを満足させるモデルも提供し続けるだろう。しかしローマの存在は彼らに、このブランドの新時代を受容できるかどうかを明らかに問いかけている。
同時に、12気筒モデルではなく、敢えてこの優雅な8気筒モデルを選ぶ粋、というかインテリジェンスさえ漂わせている。少なくとも筆者自身は、こうした挑戦を歓迎したい。
……と、美しく文章を締めたいところだが、本当はローマで困ったことがあつた。
リモコンキーが、どこにも見当たらないのだ。
思えば朝、すでにエンジンが始動してあったクルマに筆者は乗り込んだのである。これも人との接触機会を限りなく低減するための措置であったのだろう。ランチ会場でも、待ち構えていたスタッフに、エンジンを掛けたままクルマを預けてしまった。
キーの閉じ込めなどしてしまったら、格好悪くて目も当てられない。途中で一旦停止しても、ドアかサイドウィンドウを開放しておいた。
リモコンキーはセンターコンソールの目立たぬ専用スペースに置かれる
聞くはいっときの恥。クルマの返却時、スタッフにリモコンキーの在り処をこっそりと聞いた。
それは、センターコンソールの目立たぬ専用スペースにひっそりと置かれていた。あたかもバッジのように見えるものこそが、ローマのキーだったのである。
フロントフェンダーのスクデリア・フェラーリのマークを取り去るいっぽうで、こんなところにプランシングホースを棲まわせていたとは !  その“遊び”を最後に知ったときの気持ちは、メインディッシュにも匹敵する芳醇なドルチェをスプーンで一口食べたときの瞬間に似ていた。

Spec

Ferrari Roma|フェラーリ ローマ

  • エンジン:3.9リッター 90°V8  DOHC 32バルブ ターボ
  • 総排気量 3855cc
  • 最高出力:620ps(456kW)/5750-7500rpm
  • 最大トルク:760Nm/3000-5750rpm
  • 全長×全幅×全高 4656✕1974✕1301mm
  • ホイールベース 2670mm
  • 車両重量 1570kg(空車)/1472kg(乾燥)
  • 駆動方式:FR
  • タイヤ : (フロント) 245/35ZR20 /(リア) 285/35ZR20
  • 変速機:8段デュアルクラッチ式AT
  • 性能: 0-100km/h 3.4秒 最高速度 320km/h
  • 燃費:ホモロゲーション取得申請中
  • 価格:2682万円(日本)
  • 試乗開始時の走行距離:7977km
  • 試乗コースの内容 : 山間地8、高速道路1、市街地1
  • 試乗距離:232km
  • 燃費:ホモロケーション取得申請中
問い合わせ先

フェラーリ
https://auto.ferrari.com/

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