精密な12気筒の魅力を味わいたいという人に──フェラーリ812GTSに試乗|Ferrari
CAR / IMPRESSION
2021年3月31日

精密な12気筒の魅力を味わいたいという人に──フェラーリ812GTSに試乗|Ferrari

Ferrari 812 GTS|フェラーリ812 GTS

精密な12気筒の魅力を味わいたいという人に

6.5リッターV12自然吸気エンジンを搭載するフェラーリのフラッグシップモデル「812スーパーファスト」のスパイダーモデルとして、2019年9月にデビューした「812 GTS」。「365 GTS4」以来、市販車としては半世紀ぶりの登場となったフェラーリのフロントエンジンV12スパイダーに試乗した。

Text by OGAWA Fumio|Photographs by KAWANO Atsuki

こんなスムーズなクルマに乗ったことない

フェラーリが、2019年9月にイタリア本国で発表した「812GTS」。このクルマに乗ると、スポーツカーはスポーツと似ているなあ、と強く思う。
あれ? へんな言い方に聞こえるだろうか。ウィークデイはビジネス漬けの人が、週末には海や山やゴルフコースにおいて、スポーツで精神を解放する。クルマでも、スポーツカーに乗ると、気分が爽快になるのだ。
6496ccV型12気筒エンジン搭載の812GTSは、電動開閉式のハードトップを備えている。先に発表されたクーペの812スーパーファストとともに、フェラーリのラインナップを代表するモデルといっていい。一言でいうと、こんなスムーズなクルマに乗ったことない。そう断言できるほど、あらゆる場面において出来のよさが光る。
フェラーリに詳しい方なら、とっくにご承知のように、フェラーリには基本的に2つのラインがある。ひとつはV12をフロントに搭載した後輪駆動のGT。もうひとつはV8をミドシップに搭載したスポーツモデル。
フェラーリでは、V12のスパイダー(低い車体のオープンスポーツカー)を、1948年の「166」なるモデルから、今日にいたるまで連綿と作ってきている。812GTSは、このブランドのオリジンに忠実なモデルと位置づけられている。
サーキットなどでは、当然、回転の中心がドライバーとほとんど同じところにあるミドシップのクルマの方が、操縦性がいい。でも、エンジンをフロントに搭載して、後輪を駆動するレイアウトにこだわる、メルセデスAMGやアストンマーティンなどのブランドもある。
ミドシップはキャビンと後輪用の車軸とのあいだにエンジンを積まなくてはいけないので、スペース的な制約を受けてしまう。なので、あまり大きなエンジンは搭載できない。
一瞬、といいたくなるぐらい、素早い回転と、それにともなって瞬時にあふれだすパワーを誇る、精密な12気筒の魅力を味わいたいという人が、世の中には少なからずいる。その人たちが求めるのが、フェラーリ812シリーズなのだ。
588kW(800CV)の最高出力を8500rpmで、718Nmという大トルクを7800rpmで発生する12気筒エンジンは、スーパースポーツとしてはかなりレーシングカーに近い高回転型だ。
ステアリングホイールの後ろに設置されたパドルシフトで低いギアをキープして上の回転域を味わってみようとするのだけれど、どんなギアでもあっというまに法定速度に達してしまい、そのときエンジン回転はせいぜい4000rpm。ほとんどアクセルペダルを踏んでいなくても、高速道路では流れをリードできるほどだ。
一方、2000rpmあたりから、軽くアクセルペダルを踏み込むと、それだけで瞬時に加速態勢に移る。決して暴力的でなく、軽量なスポーツカーに乗っているみたいに、重さを感じさせず、瞬時に加速していく。

ニースやモナコが似合うプロムナードカー

山岳路でもかなり楽しい。「バーチャル・ショートホイールベース2.0 システム」という後輪操舵システムが備わっているので、きついカーブでも小さなクルマのように動く。
「フェラーリ・ピークパフォーマンス」は、カーブを曲がっているとき、クルマの限界が近づいてきたことを、ドライバ−に知らせるシステムも搭載されている。むしろこのシステムを使えるような状況で、ぞんぶんに乗りたいものだと思ってしまった。
乗り心地がかなりいいのも、印象的だった。格納式ハードトップを備えてロール時の安全性を確保するなど車体に手を入れられた812GTSは、クーペ版の812スーパーファストより約120kg重い。
フェラーリでは電子制御ダンパーなどで同等の軽快さを味わえる設定にしたという。一方、この重量増が、乗り心地のよさに貢献しているようにも思えた。重いといっても車重は1645kgに抑えられている。静止から100km/hまでを3秒フラットで加速するのだから、足かせになっていないと思う。
東京と箱根の往復など朝飯前。東京と京都を日帰りで往復しても、おそらく疲れないだろう。疲れない、というか、むしろ楽しい。先に触れたように、意のままに操れる操縦性と、正確だけど過敏でないステアリングなど、優れたGTの素質をすべて備えているからだ。
試乗した車両には、JBLのスピーカーシステムが備わっていた。Apple CarPlayが使えることもあり、意外なほど、いい音質で音楽を楽しむことができた。モニタースクリーンはドライバ−正面のメーターナセルに小さく設けられているだけであるものの、Siriで曲を選べるので、意外に使い勝手がいい。
812GTSは、欧米では、プロムナードカーとしても人気が高い。ニースやモナコ、ポルトフィーノやサンタモニカなどのビーチリゾートで、オープンにして乗るのがしゃれているのだ。夜のパーティに参加するさいはタキシードやロングドレスでも乗りこみが楽なように作られている。
オープンのフェラーリとは、そういう需要が多い。昨今では、人が集まれなくなっているので、ゴルフ場との往復だけではちょっと役不足かもしれない。価格4508万円の真価は、それよりもずっとカバーする範囲が広いのだ。
問い合わせ先

フェラーリ

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